敗戦のトラウマ

PTSD(Post-traumatic stress disorder)は、突然の衝撃的出来事を経験することによって生じる、特徴的な精神障害のことを言います。PTSDの主要症状は再体験(想起)、回避、過覚醒(闘争と逃走の神経といわれる交感神経系の亢進が続いている状態)の三つです。前回も述べましたが、戦地から帰還したお父さんを持つ家庭では、度々悪夢にうなされていた(再体験)、お酒を飲んで家族に暴力をふるっていた(再体験)、身近な家族と心の交流のできぬまま(回避)、仕事に過剰な関心を向け続けていた(過覚醒)父親が多かったと聞きます。 

 

もっと大きな規模でも、敗戦のトラウマを原因とする障害の長く続いている状態はPTSDと言えるのではないでしょうか。日本人にとっての敗戦は、トラウマそのものでした。私が生まれてこのかた思い出す限り、私たち日本人は、トラウマ(心の傷)と直面することを回避し、根底の部分を忘れ、極端な日本文化の過少評価、否認(欧米化、無神論化)を行ってきました。戦後の経済復興と欧米化は、米指導の帰結である半面、敗戦トラウマ回避の反動を動機としていたように思います。

 

米英では、第一次大戦後、勇敢だった兵士たちが、金切り声ですすり泣いたり、金縛りで動けなくなり、感情麻痺、健忘状態となった症状から、れっきとした精神障害であると人道的治療を進め、ベトナム帰還兵の治療経過を通して社会的認知を得ました。

 

他の先進諸国は戦争トラウマに取り組んでいるのに、なぜ、日本には未だそれがないのか考えると、66年という時間のサイクルが私たちには必要だったという視点に達します。

 

トラウマの回復段階でみると、再体験(想起)、回避、過覚醒の段階をとおり超すと、次に再考、新たな適応の段階を向かえます。この二つの段階では、落ちついた安全な状態で心の傷を徐々に思い出し、語り、当時の状況を嘆き悲しみ、涙とともに否定的な想念を洗い流すことで「トラウマ化された心の傷」を「傷ついて癒した過去体験(心の傷)」として脳の引き出しに整理することができます。

 

再考の段階まで至るのに必要な時間軸が、私たちには66年の長さだったと思うのです。

 

残念ながら既に三世代にわたり、第二次世界大戦のトラウマを継承してしまっているわけですが、世代を限らず、意識を向けると、気の遠くなるような過去の争いのトラウマに意識が遡ることができるように感じています。

 

今だからこそ、気づいた宇宙意識に立つ私たち親世代が、自分たちにできるところから取り組み、意識できる限りの歴史的な争いのトラウマを超えていけるのではないでしょうか。