還ろう生命の源へ~

産土・等々力の自然

等々力渓谷

都内屈指のパワースポット、都会のオアシスとして親しまれている等々力渓谷は、世田谷の南部に位置し、武蔵野台地の南端を矢沢川が侵食してできた、延長約1キロ、23区内で唯一の渓谷です。

 

駅近いゴルフ橋のたもとの階段を降りると、緑豊かな木々が茂り、矢沢川のせせらぎの音と野鳥の声が響き、夏でもひんやりとした渓谷のいたるところから水の湧き出る別世界が待っています。

私はこの渓谷周辺で生まれ育ちました。

 

この辺りは戦前一面の田畑だった地、戦中戦後の都市化の波は田畑を呑み込み宅地に変え、渓谷に流れ入るまでの矢沢川も一時は家庭排水のための「溝」と化していました。幸運なことに、渓谷は急斜地のため宅地開発を逃れて自然生態系が残されていました。しかし、私が少女時代を過ごした昭和の後半には、開発により、悪臭漂い汚染の溜まるか細い流れへと変身していました。自然は人災によりいともたやすく滅んでしまいます。かつて遊んだ豊かな渓流を取り戻そうと、戦前を知る地元の有志らで昭和50年代に発足した「等々力渓谷保存会」の長期的な環境浄化・保存活動が、自然を愛し守る区民の共感を呼び、現在の自然生態系を生かし、湧水あふれる緑の渓谷へと繋いでいます。

 

篤農家大平農園

産土の等々力には、400年11代に渡り農業を続けておられる大平農園があります。

 

農園主大平美和子さんのお父様は、戦後の食糧難時代、食料増産と技術向上の研究会のリーダーをつとめられ、戦後まもなく、「今こそ農家が働くときだ、人を助けるのは農民なのだから」と明治神宮をお借りし、近県の農家に呼びかけ農作物の奉納と品評会を始めました。それが現在の明治神宮新嘗祭の農林水産祭に発展しました。

 

お父様は日本で初めてハウス栽培を始めた方です。ビニールハウスは量産には適した栽培方法ですが、一方で害虫も増えてしまうという弊害があり、研究の過程で、ハウス内で農薬を散布していたご主人は具合が悪くなり、お父様も不幸にも若くして病気で亡くなられたとき、ご一家は農薬の影響と思いました。

 

その反省から50年前、「自然へ還ろう、昔は農薬など一切使わなかったのだから」というお母様の一言から、農園は有機農法への取り組みを始め、試行錯誤しながら、現在の農薬や化学肥料を一切使わずに立派な野菜をつくる方法を編み出されました。

大平さんの敷地に近づくと、大きな神社かと見間違うほどの圧倒的な樹木に驚かされます。美和子さんが心を込めて手入れする生命あふれる樹木からは、秋にはたくさんの落葉があり、落ち葉を積み重ねた腐葉土はふわふわの苗床の土になります。

 

堆肥には、落ち葉や、枝、伐採した庭木などを用い、かつて虫をよく食べるカエルの池をつくったり、天敵を配置し、自然の生き物のあいだで、食うものと食われるものがバランスする循環をうまく利用して、有機栽培をしています。城南小松菜、トマト、長ねぎ、どじょうインゲンなどは種を自家採種して育てています。トマトは原種に近いオレンジ色のトロピックという種を育てています。

年々食の安全への意識が高まる中、会員制の消費団体若葉会、固定ファンやボランティアの方々により、農園の運営は支えられています。

 

「食料を足らすのは農民の使命」と戦後の復興に尽力し、増産を篤く研究されたお父様の志を受け継ぎつつも、次世代の美和子さんたちは、自然生態系を生かして栽培する安全な有機野菜に農のあるべき姿を追求し、半世紀にわたり産土の等々力で地産地消の実践をされています。


神々に守られる産土の地

等々力不動

等々力不動は、真言宗中興の祖・覚鑁の夢のお告げにより、平安後期に開かれたと言われています。ある時、役行者作の不動像が夢の中に現れ、関東に霊地があることを告げました。やがて像を背負って関東に入ると、夢と同じ渓谷があり、杖で岩をうがつと、豊かな滝が流れ出ました。そこに不動明王像を安置したのが等々力不動の始まりと言われています。都内屈指のパワースポット等々力渓谷に隣接し、境内は豊かな自然に癒される憩いの場となっています。覚鑁と言えば、弘法大師空海が開いた高野山の腐敗を嘆き、堕落した僧界の現状を恥じる壮絶な自戒の経文「末文:我皆相代わって悉く懺悔したてる、更にまたその報いを受けしめたまわざれ」を残したことで有名です。厳しいお姿に化身して、人々の懺悔改心を促す不動明王に私たちの未来を託されているよう感じます。

 

 

九品仏浄真寺

 

産土の地には、吉良氏築城の奥沢城址に開山された九品仏浄真寺があります。9体の阿弥陀如来像を完成させた高僧珂碩上人が、徳川4代将軍綱吉に廃城となった奥沢の地を賜り、土塁の残る城址に9体の像を安置し、浄土宗浄真寺を開山しました。

 

私たちが、浄化されてゆく過程を三つに分類した九体阿弥陀如来像は、日本には京都の浄瑠璃寺と浄真寺のみで見られることから有名ですが、ご本尊の釈迦如来の放つ浄化のパワーに私は圧倒されます。

 

36千坪の境内は、新緑の時期、お花見の時期、紅葉の時期、それぞれの表情を持って出迎えてくれ、都会の喧騒とは縁遠い落ち着きを感じさせてくれます。都内にあって、近年まで開発から逃れていた産土の地域、守られていることを実感し、感謝しています。